■ 治療頻度の高い神経の処置と根の治療について #2
2022.6.26[Sun]
■本日は、歯根の解剖学的な様子と実際に感染した歯根の病態を観てみましょう。
1: 左上小臼歯です。矢印の部分が細菌感染した歯根により炎症を生じています。
2: 同様な状態を呈する右下小臼歯です。どちらも無自覚無症状です。これは、非常にゆっくりと炎症が歯槽骨に波及していくため気付きにくいためです。そして、ある段階で急性化し、非常に強い痛みと腫脹を発症し始めて気付く場合が一般的です。
3: 1のCT画像です。歯槽骨外側面の骨が吸収され、拡大する炎症組織を排泄しようとする生体反応が生じています。
これは、外敵である細菌が体内内部へ侵入し生命を脅かす事態から逃れるための生体反応です。
456: 感染した歯根の処置は、徹底した根管(神経が入っていた管状の空間)の消毒の成否に掛かっています。
ところが、実際の根管は非常に複雑で、現代の歯科治療で器具が到達可能な部分は中心の最も太い空間のみなのです。このことが根管治療の治療成績に影響しています。
「神経を取る」「根の消毒をする」など、根の治療の治癒率を上げ、長期の安定した予後を獲得するためには、外科処置レベルの滅菌操作を要します。
一方で、その妨げになる一つの要因が保険診療費の低さにあると思います。処置したかどうかではなく、治癒したかどうかが私たちの目的なのですから。
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■ 治療頻度の高い神経の処置と根の治療について #1
2022.6.12[Sun]
■新患の方で、過去に「神経を取った」歯の再治療は頻繁に遭遇します。多くの場合、歯の内部から感染し、根の先端-根尖 に嚢胞を形成しており、無症状の場合がほとんどです。稀に嚢胞が急性化し強度の痛みを生じる場合が有ります。
原因は処置時の口腔内細菌感染の場合が多いのですが、稀に根の破折などに起因する事もあります。
処置後何年も無症状で経過する場合が多く、10年以上経過してから自発痛を生じ気付く事も多々あります。レントゲン撮影で発見することが多い疾患の一つです。
原因
1.歯の内部にある神経の解剖学的な複雑さ
2.健康保険の低点数により十分な処置ができない
といったところでしょうか。
根が保存可能であれば冠を装着出来ますが、根の処置を実施するためには、すでに装着されている冠と土台(コアー)を除去しなければなりません。
症状
1.初期には、口腔内の細菌が歯の内部に侵入し、神経の炎症を生じます。強い痛みや冷水痛を生じます。
2.進行すると、神経は喪失し、一時的に痛みはかなり治まることも多くあります。しかし、治った訳ではなく、病理的には進行しています。根尖に嚢胞を形成します。
治療
内部感染した歯の内部を無菌化し、滅菌された材料にて封鎖します。
神経が入っていた空間(歯髄腔)は非常に複雑な形態なため、完全な無菌化が難しく、予後の見通しが立てにくい処置の一つです。
私の場合、どんなに急いでも、前歯で30分、大臼歯で60分を要します。
歯科医師とアシスタントそれぞれ1名を要する処置ですが、以前から赤字の処置のまま据え置かれています。決して贅沢な処置ではありませんので、早期の改善が望まれます。
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